法定相続分とは、わかりやすく言えば、法律で定められた遺産の相続割合のようなものです。
民法では、遺言書がない場合等に備えて、法定相続分が定められています。
今回は、この法定相続分の具体的な割合・計算方法、遺留分との違い、相続税について、詳しく解説します。
目次
法定相続分とは遺産の相続割合を民法上で定めたもの
法定相続分は、遺言書がないときに備え、民法が定めたものになります。
法定相続分がどのように定められているのかを解説します。
配偶者(夫/妻)と子供が相続人の場合は半分ずつ
被相続人の配偶者は、常に相続人となります(民法890条)。
そして、配偶者及び子が相続人のときは、配偶者及び子の相続分は、各2分の1ずつとなります(民法900条1号)。
配偶者(夫/妻)と父母が相続人の場合には配偶者2/3、直系尊属1/3
配偶者及び直系尊属が相続人のときは、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1となります(民法900条2号)。
配偶者(夫/妻)と兄弟姉妹が相続人の場合には配偶者3/4、兄弟姉妹1/4
配偶者及び兄弟姉妹が相続人のときは、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります(民法900条3号)。
相続人の範囲を順位別に抑える(図解有り)
配偶者は、常に相続人となります(民法890条)。
他方、被相続人の血族には、順位があります。
第1順位の相続人は,被相続人の子若しくは,その代襲相続人である直系卑属です。
第2順位の相続人は,被相続人の直系尊属です。
第3順位の相続人は,被相続人の兄弟姉妹です。
第1順位に相続人がいないときに、第2順位の血族が相続人となります。
また、第2順位にも相続人がいないときに、第3順位の血族が相続人となります。
順位 | 血族 |
第1順位 | 被相続人の子若しくは、その代襲相続人である直系卑属 |
第2順位 | 被相続人の直系尊属 |
第3順位 | 被相続人の兄弟姉妹 |
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民法がどのように相続分を定めているのか解説しましたが、これを具体的な事例に基づいて解説します。
配偶者+子供3人の場合
配偶者の相続分は2分の1になります。
子3人は、同順位になります。
この場合、子3人は、均等の相続分を有します(民法900条4号)。
子の相続分は各6分の1(2分の1×3分の1)になります。
配偶者+父母2人の場合
配偶者の相続分は、3分の2です。
父母の相続分は、各6分の1(3分の1×2分の1)になります。
配偶者+子供2人+胎児1人の場合
民法3条1項は,「私権の共享は,出生に始まる。」と定めています。
この規定を反対に解釈することにより、「出生前の胎児は,権利主体とならない」との結論が導かれます。
しかし、民法は、相続の場合には,胎児を特別に「生まれたものみなし」て相続権を保障しています(民法886条1項)。
ですので、配偶者の相続人は2分の1です。
胎児は生まれたものとみなされますので、子3人になります。
ですので、子及び胎児の相続分は、各6分の1(2分の1×3分の1)になります。
配偶者+子供1人+相続放棄をした子供1人の場合
相続放棄は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
ですので、子2人のうち1人は、相続人とならなかったとみなされます。
配偶者の相続分は2分の1になります。
相続放棄をしていない子の相続分は、2分の1になります。
法定相続分に関する注意点とは?!
法定相続分の算定において、注意しなければならないことを解説します。
兄弟姉妹の中に既に死亡している人がいる場合、兄弟姉妹の子である甥姪が代襲相続人?!
相続人となるべきであった者が、被相続人よりも前に死亡した場合、相続人となるべきであった者の子が、その者に代わって、その者の受けるべき相続分を相続することになります(民法887条2項、889条2項)。
ですので、相続人である兄弟姉妹が死亡していた場合、その子である甥姪が代襲相続人として、本来被代襲者が受けるべき相続分を相続することになります。
事実婚などによるいわゆる内縁の妻は法定相続人にはなれない
民法は,被相続人との間に一定の身分関係を有する者を、相続人と定めています(民法887条~890条)。
相続人には、被相続人の配偶者と、被相続人の血族がなります。
ですので、内縁の配偶者には、相続権が認められていません。
養子は子供として法定相続人の扱いになる?!
養子は、縁組の日から養親の嫡出子としての地位を取得します(民法809条)。
ですので、養子は養親の相続の際、相続人になります。
離婚した元配偶者は相続人にはならない
前妻や前夫は、相続開始時に既に配偶者ではありませんので、相続人とはなりません。
再婚相手の連れ子も養子にならなければ相続人とはならない
民法は,被相続人との間に一定の身分関係を有する者を、相続人と定めています(民法887条~890条)。
再婚相手の連れ子は、養子にならなければ、血縁関係がありません。
ですので、再婚者の連れ子は、養子にならなければ、相続人になりません。
摘出子と非摘出子がいる場合の考え方はどうなる?!
従前の民法は、非嫡出子がいる場合には、その法定相続分は、嫡出子の半分とすると規定していました。
しかし、民法900条4号は改正され、嫡出子と非嫡出子とで、法定相続分に差を設けていません。
ですので、嫡出子と非嫡出子がいる場合でも、相続分は均等になります。
兄弟姉妹の父母が異なる場合はどうなる?!
兄弟姉妹が数人いた場合には、均等の相続分を有するのが原則です。
しかし、半血兄弟姉妹(死亡した被相続人と親の一方のみを共通にする者)と全血兄弟がいる場合には、半血兄弟姉妹の相続分は、全血兄弟姉妹の法定相続分の2分の1です(900条4号ただし書き)
相続欠格者や相続廃除者も相続人とはならない
相続人となる一般的資格を認められている者であっても、相続秩序を破壊するような非行をした者は、当事者(被相続人)の意思や意向を問うことなく、法律上当然に相続資格がはく奪され、相続権を失います。
これを、相続欠格といいます。
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これを相続廃除といいます。
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包括受遺者や代襲相続人でない限り孫は相続権をもたない
相続の際、血族には順位があり、先順位にランクされる血族相続人が存在しないときにはじめて、後順位の血族相続人が法定相続人とされています。
第1順位の相続人は、子です。
ですので、孫は子がいないときに場合に代襲相続をするか、遺贈によらない限り、相続権を持ちません。
特別縁故者って何?!
相続人の不存在が確定し、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後に残存する相続財産の全部または一部を与えることができます(民法958条の3第1項)。
この相続財産の全部又は一部を与えられる者のことを、特別縁故者といいます。
法定相続分に拘束されないケースとは?!
法定相続分について解説しましたが、では法定相続分によらずに遺産を分けることもできます。法定相続分によらずに、遺産を分ける場合について解説します。
遺産分割協議があれば法定相続分は気にしなくてよくなる
遺言書がない場合、相続人間で遺産分割協議を行います。
相続人間で合意できれば、法定相続分で遺産を分ける必要はありません。
認知症の相続人がいる場合は遺産分割協議はどうなる?!
相続人の中に認知症の者がいるなど、意思能力や行為能力に疑いがある者がいるときは、当該相続人に対する成年後見の申立てを行わなければなりません。
遺言書がある場合は注意?!指定相続分という考え方を理解する
遺言者は、遺言書によって、法定相続分に限られず、自身の意思通りに財産を分けることができます。
ですので、遺言者は、相続分を指定することもできます(民法902条)。
例えば、配偶者に4分の3,長男に4分の1と決めることができます。
また、被相続人は、相続分の指定を第三者に委託することもできます。
遺留分に注意?!法定相続分との違いとは?!
遺留分とは、一定の範囲の相続人に対して、相続財産の一定割合について相続権を保障するものです。
被相続人は、遺言により、自身の残す財産を自由に処分できます。
もっとも、遺留分に反した場合には、被相続人の死後、受遺者等に遺留分侵害額請求がなされる可能性があります。
これに対し、法定相続分は、遺言により、相続分の指定がない場合に備えて、民法があらかじめ定めた相続分になります。
遺留分の割合とは?!
遺留分の基本的な割合は、相続人によって異なります。
相続人が、直系尊属のみである場合があります。
被相続人が亡くなり、親のみが相続人の場合です。
この場合には、被相続人の財産の3分の1が遺留分となります。
それ以外の場合には、被相続人の財産の2分の1が遺留分となります。
相続人の中に寄与分が認められる人がいる場合には注意?!
寄与分とは、共同相続人の中に、被相続人の財産の維持または増加に特別に寄与した者があるときは、被相続人が相続開始の時において有していた財産の価額から、その者の寄与分を控除したものを相続財産とみなして相続分を算定し、その算定された相続分に寄与分を加えた額を、その者の相続分とするものです。
共同相続人の中に、寄与分を有する者がいる場合、相続分の算定には注意しなければなりません。
寄与分を主張して相続分を増やす方法とは?!
寄与分を主張するには、被相続人の財産の維持または増加に特別に寄与しなければなりません。
ですので、被相続人のために財産権の利益を与える場合、無報酬又はこれに近い形で被相続人の療養看護をした場合などがあります。
共同相続人間で寄与分につき話し合いがまとまればよいのですが、まとまらない場合、寄与した者の申立てにより、家庭裁判所の調停又は審判で定めることになります(民法904条の2第2項)。
2019年7月施行の改正相続法により特別寄与の考え方が変更
被相続人に対して療養看護等の貢献をした者が相続財産から分配を受ける制度として、寄与分の制度があります。
しかし、これは、相続人にのみ認められるものです。
被相続人の親族であるが相続人でない者については、被相続人の財産の維持・増加に寄与した場合、遺産に対する持分が与えられることはありませんが、相続人に対し、特別寄与に応じた額の金銭の支払いを請求することができるようになりました(民法1050条1項)。
生前贈与などの特別受益を得ていた相続人がいた場合には注意
共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受けたり、生前贈与を受けたりした者がいた場合、この特別の受益を相続分の前倒しとみて、計算上遺贈又は贈与を相続財産に持ち戻して相続分を算定するものです(民法903条)。
共同相続人の中に、特別受益を受けた者がいる場合、相続分の算定には注意しなければなりません。
相続で悩んだ場合はすぐに弁護士や税理士に相談
相続手続は、必要資料の収集、書類の作成等をしなければなりません。
手続をどのように勧めるのか分からない、相続人間で話し合いをすることができない場合など、弁護士に相談するのが良いでしょう。
また、相続税の計算は非常に複雑であるうえ、税理士に相談・依頼すれば、各種控除等を利用できるか検討してもらうことができるので、税理士に相談するのが良いでしょう。
弁護士に相談することで、遺産を多く受け取ることができる?!
弁護士は、相続財産の調査方法、特別受益・寄与分の有無があるか否か等、相談者の状況を踏まえ、アドバイスをします。
ですので、何か分からないことや困っていることがあれば、弁護士に相談するのが良いでしょう。
相続に強い弁護士の選び方とは?!
弁護士は、企業法務、交通事故、刑事事件等、いろいろな分野があります。
ですので、相続問題を取り扱っていない弁護士もいます。
そのため、弁護士に相談・依頼する際には、相続問題を取り扱っている弁護士を選ぶのが良いでしょう。
相続税に強い税理士の選び方とは?!
税理士は税金の専門家になります。
もっとも、税金の中には、相続税以外にも、法人税、所得税等があります。
ですので、相続税を取り扱っていない税理士も中にいます。
相続税を取り扱っている税理士に相談するのが良いでしょう。
配偶者の税額軽減の特例とは?!
配偶者控除とは、被相続人の死後における生活保障、被相続人の財産蓄積への寄与、次の相続時期が比較的早いことを考慮し、配偶者の税の負担を軽減するものです。
この制度は、被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した被相続人の配偶者に対して適用されます。
配偶者控除によって、1.6億円か法定相続分の多い方まで実質無課税で財産を受け取ることができます。ですので、ほとんどの場合、配偶者は相続税を払わずに遺産を受け取ることができるのです。
ちなみに、配偶者控除に対する相続税額の軽減は、次の式になります。
配偶者控除の計算式
相続税の総額 × ①又は②のうちいずれか少ない方 / 相続税の課税価格
① 相続鋭の課税価格×配偶者の法定相続分
② 配偶者の課税価格相当額
まとめ
いかがでしたでしょうか。
法定相続分は、相続において必ず知っておかなければならない重要な制度です。
しっかりと理解するようにしましょう。